「親が高齢になってきたけど、もし認知症になったら…」
「相続対策っていろいろあるけど、うちの場合は何がいいのか」
「障害のある子どもの将来が心配」
そんな悩みを抱えている方に、今注目されているのが「民事信託(家族信託)」という制度です。
今回は、「民事信託ってなに?」という初歩から、活用事例、注意点まで、司法書士の視点からわかりやすく解説します。

民事信託ってなに?
民事信託とは、自分の財産を信頼できる家族などに託し、特定の目的のために管理・運用してもらう仕組みです。
登場人物は3人:
- 委託者(財産を託す人)
- 受託者(財産を預かって管理する人)
- 受益者(財産から利益を受け取る人)
たとえば、父が委託者であり受益者、息子が受託者というケースでは、父が認知症になっても、息子が代わりに財産を管理できるようになります。
よくある信託の活用例
1. 親の認知症対策に
親が高齢で将来の認知症が心配な場合、元気なうちに信託契約を結んでおけば、いざというときに子どもが財産を管理できます。
成年後見制度よりも柔軟で、不動産の売却や資産運用も可能です。
2. 障がいのある子どもの将来に備えて
親が亡くなったあと、障がいのある子が安心して暮らしていけるように信託で支援できます。
信頼できる兄弟を受託者にして、定期的に生活費を渡す仕組みにすることで、生活が安定します。
3. 事業承継に活用する
中小企業の経営者が持つ株式を信託し、議決権は後継者に託して経営の安定を図りつつ、配当などの利益は自身に残すことが可能です。
万が一、認知症などで意思能力を失っても、会社経営がストップすることを防げます。
民事信託と他制度の違い
比較対象 | 特徴 | 民事信託との違い |
---|---|---|
成年後見制度 | 判断能力がなくなってから使う制度。裁判所の関与あり | 柔軟な運用ができず、財産の処分は制限されることが多い |
遺言 | 死後に効力が発生 | 生前から柔軟に管理できる点で信託が有利 |
贈与 | 所有権が完全に移る | 信託はあくまで「預ける」制度。管理は任せても、受益権は委託者に残せる |
メリットとデメリット
メリット
- 認知症による資産凍結リスクを回避
- 裁判所の関与がなく、柔軟に設計できる
- 相続対策、事業承継など幅広い応用が可能
デメリット・注意点
- 税務や登記などの専門知識が必要
- 信託契約書の作成が複雑
- 信託口口座の開設が難しいケースもある(2025年現在、徐々に改善中)
こんな方は信託を検討してみてください
- 高齢の親の財産管理をスムーズにしたい
- 子どもに障がいがあり、将来の生活が心配
- 相続トラブルを避けたい
- 一人会社で、代表者が認知症になったときのリスクが気になる
- ペットの世話を信頼できる人に託したい(ペット信託)
民事信託を始めるには?
まずは司法書士など専門家に相談しましょう。手続きの流れはおおよそ以下の通りです:
- 家族構成や資産状況のヒアリング
- 信託契約の設計(目的・範囲・期間など)
- 信託契約書の作成・公正証書化
- 不動産がある場合は登記手続
- 銀行で信託口口座の開設(任意)
まとめ
民事信託は、これまでの相続・財産管理の常識を変える新しい選択肢です。
将来の「もしも」に備え、家族の絆と資産を守るための制度として、いま注目を集めています。
「まだ元気だから必要ない」と思っている今が、じつは一番のタイミングです。
ご家族の状況に合わせて柔軟に設計できる民事信託、ぜひ一度専門家にご相談ください。