2026年6月19日、身寄りのない高齢者への支援を社会福祉事業として制度化する改正社会福祉法が成立しました。実施主体には社会福祉協議会だけでなく社会福祉法人も位置づけられており、特養や養護老人ホームを運営する法人にとっては「入居から看取り、その後まで」を一貫して支える体制づくりの大きなチャンスです。本稿では、①改正の背景、②新事業でできること・できないこと、③施行スケジュール、④法人が今から着手すべき準備、の4点を行政書士の視点から解説します。
「おひとりさま」800万人時代 ― なぜ今、法改正なのか
65歳以上のひとり暮らし世帯は2025年時点で約816万人にのぼり、2050年には約1,084万人まで増えると推計されています。さらに、三親等内の親族がいない、いわゆる「身寄りのない高齢者」は2024年の約286万人から2050年には約448万人へと1.5倍以上に増える見込みです。
こうした方々が直面するのは、「入院や施設入所のとき、誰が手続きをするのか」「日々のお金や通帳の管理を誰に頼むのか」「亡くなった後の葬儀・納骨・家財の片づけは誰がやるのか」という、これまで当然のように家族が担ってきた役割の空白です。現場では、ケアマネジャーが公的サービスの範囲を超えて無報酬で死後の事務を引き受けるケースも常態化していました。
民間では「身元保証」「終身サポート」と呼ばれる有料サービスが先行してきましたが、高額な預託金を求められる例や契約トラブルが国民生活センターに寄せられるなど、資力の乏しい方や契約内容の見極めが難しい方にとっては利用しづらい面がありました。この空白を公的な福祉の枠組みで埋めるのが、今回の改正の狙いです。
改正社会福祉法の骨格 ― 何がどう変わったのか
政府は2026年4月3日、社会福祉法・介護保険法・老人福祉法などを束ねた一括改正法案を閣議決定し、同法案は2026年6月19日の参議院本会議で可決・成立しました。柱の一つが、身寄りのない高齢者支援の制度化です。
具体的には、認知症高齢者など判断能力が不十分な方の金銭管理等を支援してきた従来の「福祉サービス利用援助事業」(日常生活自立支援事業)を、「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」へと改組・拡充します。ポイントは次の3点です。
- 対象者の拡大:判断能力が不十分な方に加え、「近隣に居住する家族がいない方」「生計困難な方」など、頼れる身寄りのない高齢者等が広く対象になります。身寄りが「いる」というだけで一律に排除しない設計です。
- 支援内容の拡大:従来の日常的な金銭管理・書類預かりに加え、入院・入所時の手続き支援や、葬儀・納骨・家財処分といった死後事務までが事業範囲に加わります。
- 実施主体の多様化:この事業は第2種社会福祉事業として法律上位置づけられ、都道府県社協には実施が義務づけられる一方、社会福祉法人をはじめとする多様な主体の参入が想定されています。民間事業者の参入も可能です。
新事業で提供できる「3つの支援」
新しい事業で提供が想定されている支援は、大きく3つの類型に整理できます。特徴的なのは、経済的な余裕が十分でない方も利用できるよう、無料または低額での提供が求められている点です。
制度設計上は、定期連絡や金銭管理といった①日常生活支援を基本としつつ、②入院・入所等の手続き支援と③死後事務支援の少なくとも一方をあわせて提供する枠組みが想定されています。利用者本人との契約に基づいてサービスを提供する点は、従来の日常生活自立支援事業と同様です。
できないことも押さえる ― 身元保証(連帯保証)は対象外
ここで実務上とても重要な注意点があります。新しい第2種社会福祉事業は、入院時・施設入所時・賃貸借契約時の連帯保証人を引き受けること(いわゆる身元保証)までは想定していないとされている点です。医療行為への同意といった、本人にしかできない意思決定を代わりに行うことも当然できません。
つまり国が描いているのは、資力の乏しい方でも利用できる公的な無料・低額サービスを「1階」に置き、連帯保証の引受けなどを含む手厚いサービスを希望する方は相応の対価で民間の高齢者等終身サポート事業(2024年6月に国のガイドラインが策定済み)を利用するという、いわば「2階建て」の役割分担です。
施行スケジュール ― 準備期間は意外と短い
身寄りのない高齢者支援に関する部分は公布から2年以内に施行されます。一括改正法全体としては、一部を除き2027年4月1日が施行日とされており、新事業については省令やガイドラインの整備を経て、令和10年(2028年)頃には全国で本格運用が始まると見込む報道もあります。
「まだ2年ある」と感じられるかもしれませんが、定款変更、規程整備、人材育成、地域の関係機関との調整までを考えると、決して長い時間ではありません。厚生労働省が2024年度から進めてきた市町村モデル事業の成果が全国展開される流れですので、お膝元の自治体・社協の動向を早めに把握しておくことが重要です。
| 2026年6月 | 改正社会福祉法など一括改正法が成立 |
|---|---|
| 2027年4月 | 一括改正法の施行(一部を除く)。省令・ガイドラインの整備が進む |
| 〜2028年頃 | 身寄りのない高齢者支援の新事業が全国で本格運用へ(公布から2年以内に施行) |
社会福祉法人にとっての意義 ― 「終の棲家」を完成させる
特別養護老人ホーム等を運営する法人にとって、この新事業がもつ意味は小さくありません。これまで、身寄りのない方の入所では緊急連絡先や死後の対応が施設側の悩みの種であり、逆に入所希望者にとっては「最期まで安心して居られるのか」という不安要因でした。
母体の社会福祉法人が新事業の実施主体となれば、入居前の生活支援から、入所手続き、看取り、そして死後の葬儀・納骨・家財処分までを一つの法人グループで一貫して支えられるようになります。文字どおり「終の棲家」としての価値が完成し、地域住民からの信頼、行政や地域包括支援センターとの連携強化、ひいては将来の利用者確保にもつながるはずです。平成28年改正で責務化された「地域における公益的な取組」(社会福祉法24条2項)の中核メニューとしても、極めて親和性の高い事業といえます。
一方で、死後事務は相続や遺留分など法律問題と隣り合わせであり、小規模法人が単独で担うには人員面のハードルもあります。近隣法人とエリアを分担する連携型の実施や、専門職との顧問契約による外部支援体制の構築が現実的な選択肢になるでしょう。
今から準備すべき5つのこと
- 情報収集と経営判断:今後示される省令・ガイドライン、予算措置(補助金)の内容、都道府県・市町村やモデル事業実施自治体の動きを継続的にウォッチし、理事会で「参入するか・どの範囲で担うか」の方向性を議論しておきます。
- 定款変更と届出の準備:新たに第2種社会福祉事業を行うには、定款の事業目的への追加(所轄庁の定款変更認可)が必要です。また第2種社会福祉事業は、事業開始の日から1か月以内に都道府県知事への届出が求められます(社会福祉法69条)。認可スケジュールから逆算した準備が肝心です。
- 規程・契約書類の整備:利用契約書・重要事項説明書、預り金管理規程、死後事務の実施手順書など、金銭と個人の尊厳を預かる事業にふさわしい書類一式を整えます。自法人施設への入所契約と支援契約が併存する場合の利益相反管理のルール化も欠かせません。
- 職員の育成:死後事務や金銭管理の実務経験をもつ職員は多くありません。権利擁護・成年後見制度・相続の基礎に関する研修や、日常生活自立支援事業を担う社協との人事交流・OJTを検討しましょう。
- 専門職・事業者ネットワークの構築:行政書士・司法書士・弁護士・税理士といった専門職のほか、葬祭事業者、遺品整理・家財処分業者、金融機関などとの連携体制をあらかじめ築いておくことで、個別ケースへの対応力が格段に上がります。
行政書士がお手伝いできること
当事務所では、社会福祉法人の皆さまの新事業参入を、許認可と契約実務の両面からサポートします。
- 定款変更認可申請・各種届出:事業目的の追加に伴う定款変更案の作成、所轄庁との事前協議、第2種社会福祉事業の開始届出まで一括して支援します。
- 契約書・規程類の作成:利用契約書、重要事項説明書、死後事務委任契約書、預り金管理規程、利益相反管理規程など、事業の信頼性を支える書類を法人の実情に合わせて設計します。
- 個別ケースの支援体制づくり:遺言書の作成支援や相続手続、成年後見の利用が必要な場面では、司法書士・弁護士等の提携専門職と連携し、ワンストップで対応できる体制をご用意します。
なお、制度の細部(対象者の認定基準、費用負担のあり方、補助の仕組みなど)は今後の省令・ガイドラインで具体化される部分が多く残っています。本稿は2026年7月時点の公表情報に基づくものであり、最新情報は随時アップデートしてまいります。
まとめ ― 「おひとりさま支援」は社会福祉法人の新しい使命
今回の改正社会福祉法は、単身高齢社会のセーフティネットを再構築する歴史的な一歩であると同時に、社会福祉法人にとっては地域からの信頼を形にする絶好の機会です。定款変更や体制整備には相応の準備期間が必要ですから、施行を待たず、まずは自法人としての方針検討から始めてみてください。新事業への参入をご検討中の法人さまは、初回相談にて制度概要のご説明から承ります。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年7月時点の情報(2026年6月19日成立の改正社会福祉法および関連報道・厚生労働省公表資料)に基づいて作成しています。制度の詳細は今後公布される政省令・ガイドラインにより変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。