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社長さんが認知症になったら倒産リスク?!

中小企業の社長さんが、認知症になったら大変です。

倒産リスクがあります。

ですので、

社長さんは元気なうちにこれをしてください

・遺言をする(自筆証書遺言、公正証書遺言どちらでも良い)

・任意後見契約をする(任意後見受任者は親族、専門職どちらでも良い)

・民事信託(家族信託)をする(資産の状況によっては不要)

理由は以下のとおりです。

誰も暴走を止められない(一人会社の場合、後見人が選任されるまでは)

中小企業の多くはオーナー兼社長です。オーナーというのは会社の持ち主で、株式を持っている人のことです。全株主を持っていなくても、過半数を持っていることが多いです。この場合、定款に別段の定めがない限り、取締役の解任には、議決権の過半数を持っている株主の出席が必要となります。(会社法第331条第1項・同第339条第1項)ですので、社長が議決権の過半数の株式を持っていたら、解任できません。では、取締役会で代表取締役を解任できるか?(取締役としては残る)となりますが、取締役が3名以上で、社長以外の取締役の賛同が得られれば可能です。しかし、会社の承継に争いがあり、他の取締役の賛同が得られなければできません。いわゆる「一人会社(社長も株主も一人)」の場合はお手上げです。

じゃあ、後見人を選任すれば解決?いえいえ・・

では、認知症が疑われる社長のために、後見人を選任するとします。すでに認知症のため、意思能力に問題がある場合は、任意後見は使えず、法定後見人の選任申立てをします。

申立できるのは本人、配偶者、四親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。任意後見と違い、法定後見では、後見人が誰になるかは選ぶことができません。もちろん後見人の候補者を申立時に記載することはできますが、選ぶのは裁判所なので、誰がなるかはわかりません。候補者以外の場合は、専門職後見人(弁護士や司法書士等)がなりますので、法律には詳しいですが、会社経営となると一般の方と大差ありません(もちろん先生にもよりますが)。つまり、認知症になった代表者に代わり、後見人を立てたとしても、経営能力が未知数な事情のわからない第三者が、株主権や代表権を行使することになります。

いやいや、それでも後見人は裁判所の監督があるから安心では?と思われるかもしれません。そうですね、財産の保全という点では安心ですが、財産はロックがかかり、硬直状態になってしまいます。いわゆる、やってしまうリスクは回避できますが、やらない(ことにより被る)リスクは回避できません。

後継者含む会社関係者と成年後見人の利害が対立することもあるでしょう。

一人会社の社長が認知症になった場合、以下の流れをたどるでしょう。

認知症発症

物忘れがひどくなり、ミスが連発し、トラブルが多くなります。代表者としての業務をこなせなくなります。

成年後見人の選任申立てをする

配偶者や子など四親等内の親族等から法定成年後見人の申立を家庭裁判所に行います。

申立書には後継者候補の親族等が後見人候補者として記載しておきます。

専門職後見人が選任されます。

親族後見人が選任される割合は2割とも言われています。したがって、ほぼ8割については専門職(弁護士や司法書士等)の後見人が選任されてしまいます。後見人が選任された時点で取締役(代表取締役でもある)と会社との委任関係は、民法第653条第2項により終了するのですが、定款や法令により定数を満たさなくなった場合は、会社法第350条及び同法第346条第1項により、なお、役員としての権利義務を有します。つまり、なお、取締役であり、代表取締役であるということです。

後見人が社長の財産管理を始めます。

財産の中には会社の株式も含まれますので、株主総会での議決権を有します。後見人は取締役を選任及び解任できますし、重大な決議をできますし、時にしなければなりません。

親族と後見人とで今後の会社運営について話し合います。(うまくいけばいいのですが・・)

会社運営を今後どうするか、話し合います。ここで、優秀な後継者がすでに育っており、親族からも何ら異議がなければ、いいのですが、後継者争いが元々あった場合はやっかいです。

居住用の不動産でなければ、その処分にあたっては家庭裁判所は不要ですが、万が一、その処分によって被後見人に損害を与えた場合には、後見人は損害賠償責任を負うことになります。

株式を売却するにしても、誰にどれだけ売却するか、その価格は適正か検討しなければなりません。

会社に利益が多く出ている場合、買い取るお金が用意できないことも考えられます。

後見人としても判断が非常に難しい局面です。

話し合いがうまくいかない場合、会社は重大な決定を下せませんので、会社運営は止まってしまいます。(日常業務は流れるかもしれませんが)運転資金の借り換えや、担保の付け替えも難しくなるかもしれません。

後見人が臨時株主総会を開催します。

後見人が被成年後見人の社長に代わり、臨時株主総会を開催します。

そこで、社長の辞任(又は解任)、新取締役の選任を行います。場合によっては、社長の持っていた株式を会社に買ってもらうこと(自社株買い)も検討しなければなりません

同日、新取締役が複数の場合は取締役の互選等で新代表取締役選任します。

新社長(役員)で会社運営スタート

新社長により、会社運営がスタートします。先代社長はこれで会社から手が離れることになります。

以上が、うまくいった場合の事業承継です。

うまくいかない場合もたくさんあると思います。

例えば

・承継者争いが顕在化して、株式の譲渡がうまくいかない。

・承継者に株式を譲渡しようとしたが、買い取り資金が用意できない。

・後見人と親族の話し合いがうまくいかない。

・社長本人に認知症の自覚がなく、診察を受けてもらえない。(成年後見の申立ができない)

などです。

ではどうすれば良いか?

そうです。冒頭に戻りますが、

社長さんが元気なうちに

遺言をする(自筆証書遺言、公正証書遺言どちらでも良い)

任意後見契約をする(任意後見受任者は親族、専門職どちらでも良い)

民事信託(家族信託)をする(資産の状況によっては不要)

これしかありません。

もちろん、遺言の内容や、任意後見契約の代理権目録及び民事信託の信託財産の選別等、検討すべきことは山ほどあるのですが、これらをしなければ、冒頭のような困った事案にぶつかります。

日本は長寿社会と言われて久しいですが、そのため、認知症が長期間に及ぶリスクが高いです。

長期間、財産がロックされ、会社運営がストップしてしまった結果、倒産ということもありえるということを頭に入れておいてください。

そして、後継者を育てておいてください。自他ともに認める後継者がいれば、後見人が選任された後も、障害は少ないです。

司法書士
司法書士

認知症以外でも脳梗塞や心臓の病気などで、脳に障害が残ることがあります。その間、会社を任せられる後継者と任意後見契約等の備えを必ずしておくことが大事です!

任意後見人について(法定後見との関係)