【2026年改正】成年後見制度が抜本改正へ
後見・保佐が廃止され「補助」に一元化される新制度を司法書士が解説
令和8年6月24日、成年後見制度の創設(平成12年)以来最大となる民法等の改正法が公布されました。本記事では、令和8年7月13日に開催された第21回成年後見制度利用促進専門家会議の配付資料(厚生労働省・法務省)をもとに、改正の全体像と実務・ご家族への影響を整理します。
「一度成年後見を始めたら、本人が亡くなるまでやめられない」「遺産分割のためだけに利用したかったのに、報酬の負担が一生続く」――。成年後見制度について、当事務所にもこうしたお悩みが数多く寄せられてきました。この長年の課題に、ついに立法的な答えが出ました。民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)が令和8年6月に国会で可決・成立し、6月24日に公布されたのです。
そして本日・令和8年7月13日、厚生労働省で第21回成年後見制度利用促進専門家会議が開催され、改正法の内容と、令和9年度から始まる次期成年後見制度利用促進基本計画の検討スケジュールが公表されました。司法書士は成年後見の専門職後見人として最も多くの受任実績を持つ資格であり、この改正は私たちの実務、そして何よりご本人・ご家族の生活設計に直結します。公表資料を読み解いていきましょう。
1.改正の背景 ― なぜ今、成年後見制度を変えるのか
法務省資料(配付資料1-2)は、改正の背景として、高齢化の進展と単独世帯の増加による家族の在り方の変化、そして障害の有無にかかわらず自己決定権を尊重するという理念の高まりを挙げています。現行制度の最大の問題点は、次の2つに集約されます。
第一に、事理弁識能力を「欠く常況」と認定されると、後見人が包括的な代理権・取消権を持つ「後見」しか選べないこと。たとえば遺産分割協議のためだけに後見を開始しても、後見人の権限は本人の財産・生活全般に及び、自己決定が必要以上に制限されてきました。
第二に、一度始めると判断能力が回復しない限りやめられないこと。利用のきっかけとなった手続(遺産分割や不動産売却など)が終わっても制度利用は続き、専門職後見人の報酬負担が本人の死亡まで継続する――これが「使いにくい制度」と言われてきた核心です。
厚生労働省資料(配付資料1-1)によれば、令和7年12月末時点の制度利用者は259,901人。内訳は成年後見が約69.6%(180,828人)、保佐が約22.4%、補助が約7.0%、任意後見はわずか約1.1%です。利用者数は毎年増加しているものの、認知症高齢者の数と比べれば利用は限定的で、「最も重い後見類型に偏っている」という構造的な課題が数字にも表れています。
2.法定後見の大転換 ―「補助」への一元化と「特定補助」
今回の改正の最大のポイントは、後見・保佐の2類型を廃止し、「補助」の制度に一元化することです。判断能力の程度によって利用できる制度が画一的に決まる現行の3類型方式をやめ、本人に必要な事項についてだけ、個別に権限を付与する仕組みへと転換します。
- ①事理弁識能力が不十分、②本人の同意、③制度利用の必要性を要件に、特定の行為について個別に補助人への代理権付与・同意権付与の審判を行う
- 事理弁識能力を欠く常況にある方については、例外的に、法定の重要な財産行為をいずれも取り消せる「特定補助」の仕組みを選択可能(医師2人以上の意見聴取が原則)
- 判断能力が回復していなくても、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、申立てまたは職権で利用を終了できる
つまり「遺産分割のために代理権を付与してもらい、協議と登記が終わったら制度を終了する」というスポット的な利用が正面から可能になります。補助人には家庭裁判所への年1回の本人状況報告が義務付けられ、その際に必要性が失われていれば職権での終了も予定されています。これは実務の風景を大きく変える改正です。
本人の意思をより尊重する仕組みへ
改正法は、家庭裁判所が補助人を選任する際の考慮要素の冒頭に「本人の意見」を規定し直しました(現行法では考慮要素の最後)。また、補助人には職務遂行にあたり本人に情報を提供し、話を聴くなどの適切な方法で本人の意向を把握する義務が明文化されます。
さらに、解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が追加されました。横領などの不正がなくても、たとえば補助人が本人と面談を行わないなど適切な保護がなされていない場合には、交代が可能になります。「後見人と合わないのに替えられない」という従来の不満に応える改正です。報酬についても、補助人が行った事務の内容等が考慮要素であることが規定上明確化され、認容事案の実績公表により予測可能性を高めることが予定されています。
死後事務・特別代理人の新設
補助への一元化に伴い、補助人にも本人死亡後の火葬・埋葬に関する契約の締結や、権限の範囲内での相続財産の保存行為(未払施設利用料の支払など)が認められます。また、意思表示の相手方が事理弁識能力を欠き受領者がいない場合に備え、意思表示の受領のための特別代理人制度が新設されます。相続実務では、相続人の一人に受益の意思表示や通知を届けたい場面で活用が想定されます。
3.任意後見制度も使いやすく
利用者が全体の約1.1%にとどまる任意後見制度についても、大きな見直しが行われます。
| 現行の課題 | 改正後 |
|---|---|
| 任意後見監督人の選任が必須で、監督の負担が重い場合がある | 家庭裁判所が明らかに監督人不要と認めるときは、監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督できる |
| 法定後見が開始すると任意後見契約が終了してしまう | 補助の利用を開始しても任意後見契約の存続を許容(権限重複は一部解除の規律で調整) |
| 発効申立ての権限が親族・任意後見受任者に限定 | 本人が公正証書で指定した第三者も発効の申立てが可能に |
| 受任者死亡に備える仕組みがない | 任意後見契約の効力発生の順序を定める合意(予備的な受任者の指定)が可能に |
「おひとりさま」の終活支援に取り組む当事務所としては、信頼できる第三者に発効申立てを委ねられるようになる点が特に重要と考えています。身寄りのない方でも、任意後見契約を「絵に描いた餅」にせず確実に機能させる道筋が整いました。
4.遺言制度 ―「保管証書遺言」の創設と押印の任意化
今回の改正法は遺言制度もセットで見直しています。目玉は「保管証書遺言」の創設です。パソコン等で作成した遺言のデータやプリントアウトしたものを法務局に提供し、本人が対面またはウェブ会議で遺言の全文を口述するなどして、法務局が保管する新しい方式です。全文自書という自筆証書遺言の負担が、デジタル時代に合わせて大きく緩和されます。
あわせて、自筆証書遺言等における押印が任意化されます(民法968条等)。押印慣行や法意識の変容を踏まえた改正で、遺言の方式不備による無効リスクの一部が解消される方向です。施行は遺言制度については公布から1年以内(システム改修を要するものは3年以内)とされており、成年後見部分より早く動き出す可能性があります。
5.いま後見・保佐を利用中の方はどうなる? ― 経過措置
すでに後見・保佐を利用中の方やそのご家族にとって最大の関心事は経過措置でしょう。法務省資料によれば、基本的な枠組みは次のとおりです。
- 現在の後見・保佐は、基本的に現行法の内容のまま利用継続が可能(ただし解任事由・意向尊重義務は改正後の民法を適用)
- 新制度に移行したい場合は、改正後の補助の審判を申し立てることで移行でき、その際に現在の後見・保佐開始の審判は取り消される
- 制度利用を終了したい場合は、後見・保佐開始の審判の取消しの申立てが可能(申立権者:本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人等)
- 施行日前に締結された任意後見契約にも改正後の任意後見契約法が適用(旧法下で生じた効力は維持)
成年後見制度に関する改正部分の施行は公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日とされ、専門家会議資料では令和10年度の施行が想定されています。現在利用中の約26万人の方々について、継続・移行・終了の選択が現実の論点になるまでには準備期間がありますが、「うちの場合はどうなるのか」を早めに専門家と整理しておくことをおすすめします。
6.車の両輪 ― 社会福祉法改正と地域の権利擁護支援
民法改正と対になるのが、令和8年に成立した社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)です。成年後見が「終わらせられる制度」になる以上、制度利用終了後も判断能力が不十分な方の生活を地域で支える受け皿が不可欠になるためです。厚生労働省資料では、次の2点が特に重要です。
第一に、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援事業の法定化。日常生活支援に加え、入退院等の手続支援、緊急連絡先の提供、葬儀・納骨・家財処分といった死後事務の支援を、一定割合以上の利用者に無料または低額で提供する事業が第二種社会福祉事業(福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業)として位置付けられます。民間の「高齢者等終身サポート事業」は費用面のハードルがあるため、資力が十分でない方も利用できる公的な枠組みを整えるものです。
第二に、「地域権利擁護相談支援センター」の設置。成年後見制度や権利擁護事業の適切な利用支援の中核を担う機関として市町村が設置できるようになり、次期計画期間の初年度(令和9年度)から施行されます。国会の附帯決議では、社会福祉協議会に困難ケースが集中しないよう多様な担い手の参画を促すこと、終身サポート事業の優良事業者認定制度の検討なども求められており、司法書士をはじめとする専門職の役割は一層広がる見込みです。
なお、体制整備の現状として、全国の中核機関整備率は77.0%(1,340市町村)、市町村計画の策定率は82.4%。私たちの石川県では19市町のうち市町村計画策定16・中核機関整備16(いずれも84.2%)、協議会設置13(68.4%)と全国平均を上回る水準ですが、KPIである100%にはまだ距離があります。
7.次期基本計画の検討がスタート ― 今後のスケジュール
第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4〜8年度)が最終年度を迎える中、専門家会議では次期基本計画(令和9年度〜)の検討の進め方が示されました。「成年後見制度の適切な運用」と「地域における権利擁護の支援体制」の2つのワーキング・グループを設置し、令和8年7月から9月にかけて集中的に検討したうえで、12月を目途に計画案に盛り込むべき内容を取りまとめる方針です。次期計画の期間中に新制度の施行を迎え、現行制度と新制度が併存する期間が生じるため、それぞれの局面での運用課題を意識した検討が行われます。
8.司法書士の視点から ― ご相談者へのメッセージ
今回の改正を一言でまとめれば、成年後見制度は「本人を管理する制度」から「本人が必要なときに必要なだけ使う制度」へと生まれ変わります。ただし、施行までには2年以上の準備期間があり、その間は現行制度での申立て・運用が続きます。実務上は次の3点を意識しておくとよいでしょう。
①いま後見申立てを検討中の方:改正を待つべきか、現行制度で進めるべきかは、本人の生活・財産の状況と手続の緊急性次第です。預貯金の払戻しや遺産分割など待てない事情があれば現行制度での申立てが基本ですが、経過措置により将来の終了・移行の道も開かれています。②将来に備えたい方:任意後見の使い勝手が大幅に向上します。保管証書遺言の創設とあわせて、遺言・任意後見・死後事務委任を組み合わせた生前対策の選択肢が広がるため、設計の見直し時期です。③現在後見・保佐を利用中のご家族:慌てる必要はありませんが、施行後にどの選択肢(継続・移行・終了)が本人の利益に適うか、早めの情報収集をおすすめします。
当事務所は、成年後見・任意後見・遺言・相続登記から不動産の売却まで、司法書士・行政書士・宅建業のワンストップで金沢・石川の皆さまをサポートしています。制度改正に関する最新情報も、本ブログで継続的にお届けしていきます。
よくあるご質問(FAQ)
Q1.いま利用している成年後見は、改正でどうなりますか?
基本的には現行法の内容のまま利用を継続できます。改正法施行後は、新制度(補助)への移行の申立てや、後見・保佐開始の審判の取消しの申立ても可能になります。どの選択が適切かはご本人の状況によりますので、専門家にご相談ください。
Q2.新しい制度はいつから始まりますか?
成年後見制度の改正部分は公布(令和8年6月24日)から2年6月を超えない範囲で政令で定める日に施行され、専門家会議資料では令和10年度の施行が想定されています。遺言制度(押印の任意化など)は公布から1年以内、保管証書遺言などシステム改修を要するものは3年以内の施行とされています。
Q3.「遺産分割のためだけ」に後見制度を使い、終わったらやめることはできますか?
改正後は可能になります。遺産分割の代理権を補助人に個別に付与し、目的の手続が完了して制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、判断能力が回復していなくても利用を終了できます。
Q4.身寄りがなく、入院手続や死後のことが心配です。
社会福祉法改正により、頼れる身寄りがない方への入院等手続支援・死後事務支援を無料または低額で提供する事業が第二種社会福祉事業として法定化されます。あわせて、任意後見契約・死後事務委任契約・遺言による民間の備えも有効です。当事務所のおひとりさまサポートでお気軽にご相談ください。
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【出典】第21回成年後見制度利用促進専門家会議(令和8年7月13日)配付資料1-1「成年後見制度をとりまく状況について」(厚生労働省)、配付資料1-2「成年後見制度に関する制度改正の状況について」(法務省民事局)、資料2-2「次期基本計画の検討の進め方について(案)」/本記事は公表資料に基づく一般的な解説であり、個別の事案への適用については専門家にご相談ください。施行日等は今後の政令で確定します。

