病院や薬局の会計で渡される「領収書」と「診療明細書」。診療明細書の方は捨てていませんか?結論から言うと、2枚とも残してください。この2枚と健康保険から届く「医療費通知」があれば、①医療費控除(5年さかのぼれる)、②高額療養費(申請しないと2年で消える)、③民間医療保険の簡易請求(条件を満たせば診断書が不要)の3つでお金が戻る可能性があります。亡くなった親の分を相続人が請求できるものもあります。金沢のいきいき司法書士事務所の司法書士・FPが、2026年(令和8年)8月の高額療養費改定を踏まえて図表で整理します。
「領収書」と「診療明細書」は何が違う?――医療費通知も含めた3つの書類の役割
領収書(領収証)は「いくら払ったか」を示す紙です。一方の診療明細書は「何をしたか」を示す紙で、算定項目ごとの点数、薬の名前、手術名、入院日数の根拠まで載っています。保険医療機関・保険薬局には領収書の交付義務があり、電子レセプト請求(診療報酬のオンライン請求)をしている大半の機関は診療明細書も無償で交付する義務があります。もらっていなければ会計で頼めば受け取れます。
3つ目の医療費通知(医療費のお知らせ)は、協会けんぽ、金沢市国保、石川県後期高齢者医療広域連合といった「保険者」(健康保険の運営主体)が送ってくる医療費の一覧です。これとは別に、確定申告で自分が作って出す「医療費控除の明細書」があります。病院の「診療明細書」とは別物で、ここを混同しないことが最初のポイントです。
制度①医療費控除――5年さかのぼれる。ただし「明細書」は2つある
医療費控除は、1年間に実際に支払った医療費が一定額を超えたとき、所得税・住民税が軽くなる制度です。計算は「(支払った医療費-保険金等で補填される〈穴埋めされる〉金額)-10万円」で、総所得金額等(所得の合計額)が200万円未満の方は10万円の代わりに「その5%」を差し引きます(上限200万円)。生計を一にする(=家計が同じ)配偶者や親族の分も合算できます。
2017年(平成29年)分から、税務署に出すのは領収書ではなく「医療費控除の明細書」になりました。領収書は添付不要ですが、確定申告期限等から5年間の保存義務があります。
医療費通知に所定の6項目(氏名・療養年月・医療機関名・支払額など)が載っていれば、その分は医療費控除の明細書への記載を省略できます。マイナポータル連携なら国税の電子申告(e-Tax)に自動入力され(1年分は例年2月9日から)、XMLで送信した分は領収書の保存も不要です。
還付申告は翌年1月1日から5年間できるので、2021年(令和3年)分は2026年12月31日まで間に合います。
部屋代・食事代や市販薬が「治療のための支出か」を後から説明する根拠になります。領収書とセットで5年保管を。
足せるもの:公共交通機関の通院費、入院の部屋代・食事代、治療に必要な市販薬、介護保険の一定の自己負担など。足せないもの:ガソリン代・駐車場代、健康診断(原則)、予防・美容目的。引くもの:高額療養費や入院給付金などの補填金。
それより早く申告するなら、その期間分は領収書から自分で医療費控除の明細書を作ります。市販薬向けのセルフメディケーション税制とは選択制で、申告後は変更できません。
制度②高額療養費――2026年8月改定で上限額アップ、申請しないと2年で消える
高額療養費は、1か月の窓口負担が上限額を超えたとき、超えた分が保険者から戻る制度です。金額が大きい反面、申請しなければ戻らないケースがあり、時効は診療月の翌月1日から2年です。2026年(令和8年)8月診療分からの上限額(70歳未満)を、改定前と並べて示します。
| 区分(年収目安) | 2026年(令和8年)7月診療分まで | 2026年8月(令和8年8月)診療分から | 多数回該当 |
|---|---|---|---|
| ア(約1,160万円〜) | 252,600円+(総医療費−842,000円)×1% | 270,300円+(総医療費−901,000円)×1% | 140,100円 |
| イ(約770〜1,160万円) | 167,400円+(総医療費−558,000円)×1% | 179,100円+(総医療費−597,000円)×1% | 93,000円 |
| ウ(約370〜770万円) | 80,100円+(総医療費−267,000円)×1% | 85,800円+(総医療費−286,000円)×1% | 44,400円 |
| エ(〜約370万円) | 57,600円 | 61,500円 | 44,400円 |
| オ(住民税非課税) | 35,400円 | 36,900円 | 24,600円 |
表の「多数回該当」は、直近12か月に3回以上上限を超えると4回目から上限が下がる仕組みです。2027年(令和9年)8月には区分を13に細分化する第2段階も予定されています(区分ごとの金額は保険者の案内でご確認ください)。
金沢市国保と後期高齢者医療は、初回のみ診療月の約3か月後に申請書が郵送され、2回目以降は自動振込です。最初の1通を放置すると2年で権利が消えます。領収書添付の要否は保険者により異なるため、領収書は残しておくのが安全です。
受け取った高額療養費は相続財産です。後期高齢者医療では「後期高齢者医療給付費受領申立書」と本人確認書類、通帳で請求します。医療と介護を年間で合算する高額介護合算療養費も別申請です。
制度③民間医療保険の簡易請求――診療明細書があれば診断書代がかからない
入院給付金や手術給付金の請求には通常、医師の診断書(一般に数千円〜1万円程度)が必要ですが、近年は領収書と診療明細書のコピーで代えられる「簡易請求」が広がっています。診療明細書の入院日数・手術名で、保険会社が給付の要件を判定できるからです。
2026年9月時点の各社公表内容では、アフラックは契約2年以上・入院30日以下なら、手術なしは領収書のコピー、がん以外の手術ありは診療明細書のコピー(+所定の申告書)で診断書不要、東京海上日動あんしん生命は手術料記載の領収書コピーで手術給付金も可(条件あり)とされています。
必ずご自身の契約で保険会社に確認を。提出はコピーで足りるので、原本は医療費控除用と相続時の精算用に残します。
保険法95条により、各社「支払事由発生日の翌日から3年」です。書類が揃えば期限を過ぎても相談できることがあります。親の入院時は「領収書と診療明細書は両方もらう」を家族で共有しておきましょう。
【早見表】どの書類がどの制度で必要か+「受け取ったら」のフロー図
| 書類 | ①医療費控除 | ②高額療養費 | ③保険の簡易請求 |
|---|---|---|---|
| 領収書 いくら払ったか | 添付不要だが5年保存。通知に載らない分の転記元 | 協会けんぽは原則不要。市町村国保は添付を求める例が多い | コピーを提出 |
| 診療明細書 何をしたか | 提出不要。治療目的の支出かを示す根拠として保管 | 提出不要。合算や上限超過を確かめる材料 | 主役。入院日数・手術名で診断書の代わりに |
| 医療費通知 保険者の一覧 | 6項目があれば明細記載を省略。マイナポータル連携で自動入力 | 上限超過の目安に(通知内容によります) | 通常使わない |
| 医療費控除の明細書 自分で作る様式 | 添付必須(2017年分から) | ― | ― |
受け取ってからの流れは次の5ステップです。
相続が始まったら――亡くなった親の医療費、高額療養費、葬祭費と「証拠としての領収書」
相続相談で痛感するのは、親の医療費の領収書と診療明細書が、そのまま相続手続きの証拠書類になるということです。
① 準確定申告(亡くなった方の分の確定申告)の医療費控除:死亡日までに本人が支払った分が対象
② 死亡後に相続人が支払った医療費:生計を一にしていた相続人の医療費控除の対象。生計が別なら、相続財産からの立替精算で調整する
③ 未払医療費:相続税の債務控除(=遺産から差し引ける債務)の対象。請求書・領収書が証拠
④ 死亡後の高額療養費:相続人が申請(2年)、受給額は相続財産として遺産分割の対象
⑤ 葬祭費・埋葬料:金沢市国保・後期高齢者医療は葬祭費5万円(喪主に、葬祭日翌日から2年、葬儀費用の領収書等)。協会けんぽは埋葬料5万円
誰がいつ何を立て替えたかが紙で残っていれば、遺産分割協議での精算はスムーズです。親の医療費の領収書と診療明細書は、相続が終わるまで捨てないでください。
こうした請求では戸籍一式を求められることが多く、法定相続情報一覧図(法務局の認証付きの相続関係図)があれば戸籍の束の代わりに使えて、手間と費用を減らせます(可否は各窓口にご確認ください)。実家の名義を確認する際は、2026年4月に始まった住所変更登記の義務化もあわせてご確認ください。
金沢でよくあるご相談の3つのケースと期限タイムライン
いずれも架空の例です。
ケース① 「10万円に届かない」と思っていたご夫婦
金沢市在住・68歳の男性(年金収入のみ)。2024年に白内障手術と奥様の通院リハビリ。仮に総所得金額等150万円なら、差し引く額は5%の7万5千円。夫婦の医療費合計25万円・補填0円と仮定すると控除額は17万5千円。所得税率5%・住民税10%と仮定した軽減額の目安は約2万6千円です(一般的な計算例で、税率や適用は所得や状況により異なります)。
ケース② マイナ保険証を忘れて30万円払った会社員
金沢市の会社員・55歳男性(協会けんぽ、区分「ウ」と仮定)。2026年9月に手術入院し、総医療費100万円で窓口3割の30万円を支払いました。改定後の上限は85,800円+(1,000,000円−286,000円)×1%=92,940円、差額207,060円が戻る計算です。同じ領収書と診療明細書のコピーで保険の簡易請求もでき、受け取った給付金と高額療養費は、振込が翌年になっても、その医療費を支払った年(今回なら2026年分)の医療費控除で補填金として差し引きます(申告時に金額が未確定なら見込額で計算します)。
ケース③ 一人暮らしの母が骨折入院、娘が書類集め
野々市市在住の45歳女性。金沢市内で一人暮らしの母(78歳)が2026年10月に骨折で12日間入院しました。会計で領収書しか受け取っておらず、後日、診療明細書をもらいに病院へ再訪。条件を満たせば診断書不要で入院給付金を請求でき、仕送りなどで生計を一にしていれば、娘さんが自分のお金で支払った母の医療費を娘さんの申告に含められる可能性があります(判断は税務署にご確認ください)。
よくあるご質問
Q1.セルフメディケーション税制はどう変わりますか?
A.2026年(令和8年)分までは現行ルール(対象医薬品の購入費−12,000円、最高88,000円)です。2027年分からは恒久化・対象拡大の予定と報じられていますが、要件は確定情報をご確認ください。
Q2.マイナポータル連携で家族の分も入力できますか?
A.代理人設定をすれば取得できます。ただし自費診療・通院交通費・整骨院や鍼灸の施術代などは載らないので、領収書から手入力します。
Q3.金沢市の子ども医療費で領収書が要るのはどんなときですか?
A.県外受診などで、いったん窓口で払い後から払い戻しを受ける「償還払い」のときです。領収書の原本(レシート・コピー不可)が必須、期限は診療月の翌月以降2年以内です。
Q4.能登半島地震の窓口負担免除の分は、まだ戻せますか?
A.免除は2025年(令和7年)6月30日診療分で終了しましたが、免除期間中に窓口で支払った分は、領収書を添えて申請すれば還付されます。期限は2年(起算日は保険者にご確認ください)です。
Q5.限度額適用認定証はもう要らないのですか?
A.マイナ保険証を提示すれば原則不要です。お持ちでない場合、金沢市国保は事前申請の認定証、後期高齢者医療は資格確認書への併記で対応します。
まとめ|2枚セットで残し、原本は自分用、相続が終わるまで捨てない
① 次の受診から「領収書」と「診療明細書」を両方もらい、人別・月別に保管する
② 医療費通知と突き合わせ、2021年分までさかのぼって医療費控除を、2年以内の高額療養費を申請する
③ 親の医療費は原本を残してコピーを保険会社へ。相続が始まったら早めに専門家へ
確定申告のご相談は金沢税務署(金沢市西念3丁目4番1号)へ。これからの資産管理は終活・資産管理のご相談、登記の手続きはかんたん登記申請の記事もご覧ください。
「親の医療費の領収書が山ほど出てきた。相続手続きはどこから手を付ければ?」――そんなときはご相談ください。法定相続情報一覧図の取得から実家の名義変更(相続登記)・売却まで一つの窓口で対応します。高額療養費など健康保険の給付申請や、医療費控除など税務の個別判断が必要な場合は、社会保険労務士・税理士・税務署をご案内し、連携して進めます。
▶ ご相談・お問い合わせはこちら
