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「親の家を相続したけれど、誰も住まない。持ち続けるべきか、売るべきか決められない」

「親の家を相続したけれど、誰も住まない。持ち続けるべきか、売るべきか決められない」――これは、相続した実家をお持ちの方が最もつまずきやすいところではないでしょうか。判断できない一番の理由は、維持するといくらかかるのか、売ると手元にいくら残るのか、その2つの数字を並べて見たことがないから。この記事では、金沢の一般的な実家をモデルに、維持コストの年額と売却後の手取り額を実際に計算し、判断の物差しをお示しします。あわせて、知らずに過ぎると数百万円単位で損をする「3つの締切」も整理します。

維持と売却、どちらが「損をしない」のかは数字で比べられます

結論:迷っている間にも、3つの締切が近づいています

維持か売却かを考える前に、必ず先に確認していただきたいのが期限です。相続した実家には、放っておくと自動的に不利になる締切が少なくとも3つあります。

締切① 相続登記の義務(3年)
令和6年(2024年)4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。しかも、名義が亡くなった方のままでは、そもそも売ることができません。

締切② 空き家の3,000万円特別控除(相続開始から3年目の年末)
一定の要件を満たす実家を売った場合、売却益から最大3,000万円を差し引ける特例があります。使えるのは、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却に限られます。

締切③ 特例そのものの適用期限(現行は令和9年12月31日)
この特例は、現行制度では平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象とされています。②の3年以内であっても、現行のままなら令和10年以降の売却では使えません。もっとも、この期限はもともと令和5年12月31日までとされていたものが令和5年度税制改正で4年延長された経緯があり、今後の税制改正でさらに延長される可能性もあります。ただし延長されるかどうかは毎年の税制改正大綱が出るまで分からないため、延長を当て込んで売却時期を先延ばしにするのは避けたいところです。

相続開始(お亡くなりの日)
ここからすべての期限が動き出します。
3年以内 ― 相続登記の義務
正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象。名義が亡くなった方のままでは売却もできません。
3年を経過する日の属する年の12月31日 ― 空き家特例の売却期限
この日までに売らないと、3,000万円の特別控除は使えません。
令和9年12月31日 ― 特例の適用期限(現行)
現行制度での期限。税制改正で延長される可能性もあります。
相続した実家をめぐる3つの締切(令和8年8月時点の制度。適用期限は税制改正で変わる可能性があります)

「維持する」を選ぶと、年間いくらかかるのか

まず、持ち続ける側の数字から見ていきます。金沢市郊外にある木造2階建て・築45年・土地200平方メートルという、この地域でよく見かけるタイプの実家を想定します。誰も住まず、相続人が月に一度ほど様子を見に行くケースです。

項目年額の目安内容
固定資産税・都市計画税約8万円住宅用地の特例が効いている状態
火災保険・地震保険約2万円空き家は割高になる場合あり
水道・電気の基本料金約1万2千円通水・換気のため契約を残す場合
庭木の剪定・草刈り約4万円年2回の外注を想定
見回りの交通費・雑費約2万円県外にお住まいならさらに増加
合計約17万円10年間で約170万円

年間17万円と聞くと「その程度なら」と感じる方が多いのですが、これが10年続けば170万円、20年で340万円です。その間に建物の価値は下がり続け、売れる金額はむしろ減っていきます。

この表に入れていないのが、冬の備えです。空き家では雪囲いや除雪を省いてしまうご家庭が大半で、金沢の市街地であれば屋根の雪下ろしまで必要になることも多くはありません。ただし、省いた結果として、大雪でカーポートがつぶれた、庭木が折れて隣家に倒れた、屋根からの落雪で隣の車を傷つけた、ということにもなります。誰も見ていない家ほど、被害が出てから気づくことになりがちです。業者に雪囲いや除雪を頼めば数万円の出費、頼まなければリスクを抱えることになる。どちらを選んでも負担であることは変わりません。

そのほか、この表には現れない突発的な出費もあります。屋根や外壁の補修、給湯器の交換、傷んだカーポートの撤去。地震や大雪のあとには、予定していなかった修繕費が一度に発生することにもなります。

放置すると、固定資産税が跳ね上がることがあります

管理不全空家に指定されると、税額が最大6倍になり得ます。令和5年(2023年)12月に施行された改正空家等対策特別措置法により、そのまま放置すれば特定空家になるおそれのある状態は「管理不全空家等」として市町村が指導・勧告できるようになりました。勧告を受けると住宅用地の特例(200平方メートル以下の部分は課税標準6分の1)が外れ、固定資産税が大幅に増えます。先ほどの表の8万円が、状況によっては数十万円になるということです。

もうひとつ見落とされがちなのが、賠償リスクです。瓦や外壁が落ちて通行人にけがをさせた、倒れた庭木が隣家の車を壊した。こうした場合、土地工作物責任として所有者が責任を負う可能性があります。空き家の管理については、当グループの記事「空き家トラブルを未然に防ぐ!司法書士が教える管理の基本」もあわせてご覧ください。

「売却する」を選ぶと、手元にいくら残るのか

次は売る側の計算です。売却価格がそのまま手取りになるわけではありません。差し引かれるものを順番に並べると、次のようになります。

① 売却価格 仲介で成約した金額。買取の場合は、仲介で見込める価格の7割から8割程度が目安とされます(公的な統計はなく、物件や会社によって幅があります)。
② 仲介手数料を引く 売買価格が400万円を超える場合は「売買価格×3%+6万円」に消費税を加えた額が上限です。なお売買価格が800万円以下のときは、あらかじめ説明と合意があれば税込33万円までとする特例(低廉な空家等の媒介の特例)があります。
③ 解体費・残置物処分費を引く 古い木造住宅は更地渡しを求められることが多く、まとまった支出になります。
④ 登記費用などを引く 相続登記、住所変更登記、必要に応じて測量や境界確定の費用。
⑤ 譲渡所得税・住民税を引く ここで空き家の3,000万円特別控除が効くかどうかで、結果が大きく変わります。

買取が安いのは、値引きではなく「肩代わりの対価」です

買取価格が仲介より低いと聞くと、単に買い叩かれるように感じるかもしれません。しかし、誰が何を負担するのかを分けて考えると、見え方が変わります。

項目仲介で売る場合買取で売る場合
解体・残置物の処分売主が負担することが多い原則不要(現状のまま引渡し)
境界確認・測量売主が実施して引き渡す買主側で対応することが多い
契約不適合責任売主が一定期間負う原則として免責
売れるまでの期間3か月から半年。売れ残ることもある数週間で金額が確定
近隣への広まり方広告・内覧で知られる公開せずに完結できる

買取価格には、こうした費用と手間を買主が肩代わりする分に加えて、業者の利益、そして「手を入れて商品にしたところで、想定どおりの価格で売れるとは限らない」というリスクを引き受ける対価が織り込まれています。売主から見れば、本来なら自分で片付け、直し、境界を確定させ、売れるまで待たなければならないものを、確実な金額と引き換えに手放す費用ということです。

どちらが得かは「何割か」ではなく、最終的な手取り額と、かかる時間で比べてください。当事務所では、ご希望により、仲介で売った場合と買取で売った場合の手取りを両方お示しさせていただくこともできます。そのうえで、お客様にお選びいただければと思います。

譲渡所得税は「売れた金額」ではなく「もうけ」にかかります

譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。ここで問題になるのが取得費です。何十年も前に建てた実家では購入時の契約書が残っていないことが多く、その場合は売却価格の5%を取得費とみなす(概算取得費)扱いになります。1,200万円で売れたなら取得費はわずか60万円。つまり、ほとんどが「もうけ」として課税対象になってしまいます。

被相続人の取得時期を引き継ぐため、税率は長期譲渡所得の20.315%(所得税15%・復興特別所得税・住民税5%)となるのが通常です。ここに効いてくるのが空き家特例で、要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円が控除されます。相続人が3人以上の場合の控除額は1人あたり2,000万円です。

空き家の3,000万円特別控除 主な要件

・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建物は対象外)
・相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと(老人ホーム入所の場合も一定要件で対象)
・相続の時から売却まで、事業・貸付け・居住に使っていないこと
・売却代金が1億円以下であること
・家屋付きで売るなら現行の耐震基準に適合させるか、更地にして売ること。令和6年1月1日以後の譲渡では、売却後、譲渡した年の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行う場合も対象
・売却前に市区町村へ申請し、被相続人居住用家屋等確認書の交付を受けること

金沢のモデルケースで実際に計算してみます

先ほどの実家を1,200万円(更地渡し)で売却した場合を試算します。数字は目安であり、実際の物件で変わります。

項目金額
売却価格1,200万円
仲介手数料(売買価格×3%+6万円+消費税)△約46万円
解体費(木造30坪程度)△約150万円
残置物・家財の処分費△約30万円
相続登記などの手続費用△約20万円
譲渡所得税・住民税(空き家特例あり)0円
手取りの目安約954万円

ここで空き家特例が使えなかった場合はどうなるでしょうか。譲渡所得は1,200万円-60万円(概算取得費)-226万円(譲渡費用)=約914万円。これに20.315%を掛けると税額は約185万円となり、手取りは約769万円まで落ちます。特例が使えるかどうかだけで、約185万円の差です。売却時期を1年ずらしたために期限を過ぎてしまった、という事態は絶対に避けなければなりません。

なお金沢市には、市の現地調査で危険老朽空き家と判定された建物の解体費を補助する制度があります。補助率は2分の1で上限50万円、防災まちづくり協定区域・狭小地・無接道地にある場合は上限70万円とされています。工事契約前の申請が必要で、事前相談も求められますので、解体を考えるなら早めに建築指導課へご確認ください(受付状況や要件は年度によって変わります)。この補助が使えれば、先ほどの手取りはさらに増えることになります。

維持・活用・売却を並べて比べる

選択肢10年間の収支イメージ向いている方
そのまま維持△約170万円(税・保険・管理)+建物価値の下落将来住む予定が具体的にある方、思い入れが強く費用を負担できる方
賃貸・活用改修に数百万円。借主が付けば収入だが空室リスクあり立地が良く、賃貸需要が見込める物件をお持ちの方
売却(仲介)+約954万円(試算例)。3か月から半年程度かかる使う予定がなく、なるべく高く現金化したい方
売却(買取)額面は仲介より低いが、解体・残置物処分が不要なため手取りの差は縮む片付けが負担、時間や近所への配慮を優先したい方

数字だけを見れば売却が有利に見えます。しかし、ご家族の思い出が詰まった家です。当事務所は、無理に売却をおすすめすることはありません。大切なのは「よく分からないまま10年が過ぎてしまった」という状態を避けること。持ち続けると決めるなら、その費用を織り込んだうえで決める。それが一番後悔の少ない選び方だと考えています。

相続から売却までの流れ

STEP1 相続人と財産の確定 戸籍を集めて相続人を確定し、名寄帳や登記事項証明書で不動産を洗い出します。
STEP2 遺産分割協議 誰が実家を取得するかを決めます。売却して代金を分ける換価分割という方法もあります。
STEP3 相続登記 名義を相続人に変更します。ここまで済まないと売買契約に進めません。
STEP4 査定とシミュレーション 売却見込み額と維持費を並べ、手取り額を試算して方針を決めます。
STEP5 売却活動・引渡し 仲介または買取で売却し、決済と所有権移転登記を行います。

気をつけたいのは、STEP1からSTEP3までに思いのほか時間がかかることです。相続人が兄弟姉妹に及ぶ場合や、連絡の取れない相続人がいる場合、戸籍集めと話し合いだけで半年から1年かかることも珍しくありません。3年の期限から逆算すると、動き出しは早いほど安全です。

判断の前に確認したい3つの注意点

注意1 共有名義のまま放置しない。とりあえず法定相続分どおりに共有登記をすると、売却時に共有者全員の実印と印鑑証明書が必要になります。共有者の誰かが認知症になったり、次の相続が起きて人数が増えたりすると、手続きは一気に難しくなります。

注意2 解体のタイミングを先に決めない。先に解体すると住宅用地の特例が外れて翌年の固定資産税が上がりますし、空き家特例の要件との関係でも順序が重要です。買主が取壊しを行う形にできる場合もあるため、売買の設計と一緒に考えてください。

注意3 境界と越境を先に確認する。ブロック塀や庭木が隣地にはみ出している、境界標が見当たらないといった問題は、売買の直前に判明すると決済が遅れます。早めに現地を確認しておくと安心です。

ひとつの窓口で、登記から売却までご相談いただけます

よくあるご質問

Q1 相続登記をしないまま、売ることはできますか。

できません。登記名義が亡くなった方のままでは、買主に所有権を移せないためです。売買の決済日に合わせて相続登記を先に済ませるのが実務の基本です。なお、相続登記の申請義務を果たすだけであれば、簡易な「相続人申告登記」という方法もありますが、これは売却の準備としては足りません。

Q2 相続人が複数いて、実家をどうするか決まっていません。

判断材料が揃っていないだけであれば、まず数字を出すところから始まります。維持した場合の年間費用と、売却した場合の手取り額をお示しできれば、相続人の皆さまが同じ物差しで話し合えるようになります。売却代金を分ける換価分割という分け方もあります。なお、すでに相続人の間で対立が生じているなど紛争性がある場合、司法書士が間に入って交渉やとりまとめを行うことはできません。そのような場合は、提携する弁護士をご紹介します。

Q3 建物が古すぎて売れない気がします。

建物に価値がなくても、土地に需要があれば売れます。金沢市内であれば、古家付きのまま買主が解体する前提で取引されることも多くあります。売れない場合の選択肢としては、相続土地国庫帰属制度や無償譲渡も考えられますので、まずは現状での査定をご依頼ください。

Q4 空き家の3,000万円控除は、自分で申告できますか。

確定申告はご自身でも可能ですが、市区町村への被相続人居住用家屋等確認書の申請や、耐震・取壊しの時期など、売買契約の設計段階で決めておくべき要件が多い制度です。個別の税額計算については、提携する税理士をご紹介しています。

Q5 県外に住んでいますが、相談できますか。

はい。オンラインや郵送でのやり取りに対応しており、現地の確認は当事務所が行います。金沢に何度も足を運ばずに、登記から売却まで進めていただけます。

まとめ:今日からできる3つのこと

維持か売却かは、感情だけでも数字だけでも決められません。次の3つを揃えれば、判断できる状態になります。

1 相続開始日を確認する。3年の期限がいつ来るのかを、まずカレンダーに書き込んでください。

2 維持費を1年分だけ書き出す。固定資産税の納税通知書と保険証券を並べれば、10分で概算できます。

3 売却見込み額を知る。売るかどうかは後で決めて構いません。金額を知ることと、売ることは別です。

いきいき司法書士事務所は、司法書士・行政書士・宅地建物取引士・FPの資格を持ち、いきいきエステート(石川県知事免許(2)第4269号)として不動産の仲介・買取も行っています。戸籍集めから相続登記、資金計画、そして売却の実行までを、担当者が変わることなく一つの窓口で進められるのが当事務所の特徴です。外部の不動産会社に情報が渡らないため、知らない業者から営業の電話がかかってくることもありません。不動産の詳しいご案内はいきいきエステートのページをご覧ください。

まずは「現状のシミュレーション」だけでもOKです

維持費の試算と売却見込み額の簡易査定を、無料で実施しています。売却をおすすめすることはありません。金沢市畝田中四丁目1番地11/TEL 076-268-5360

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※この記事は令和8年(2026年)8月時点の法令・制度に基づいています。税額の試算は一般的な条件による目安であり、個別の税務判断については税理士にご確認ください。