親御さんが亡くなり、遺品整理を始めたものの、通帳がどこにも見つからない。手がかりは、ロックのかかったスマホだけ——。そんな場面に直面する方が増えています。窓口のある銀行なら、店舗に出向いて相談できました。しかしネット銀行には「窓口」がありません。どこに連絡すればよいのかさえ分からず、途方に暮れてしまうのです。
ご相談者
実際、スマホでネットバンキング(インターネット上で銀行取引をするサービス)を利用している人は58%、男性50代に限れば74%にのぼるという調査があります(NTTドコモ モバイル社会研究所・2026年5月公表)。ネットバンキングの利用は、相続の当事者となる世代にも広く浸透しています。
- 「デジタル遺品」のうち、相続できるもの・できないもの
- どこにあるか分からない財産を探す6つの手がかり
- 2025年4月に始まった「口座の一括照会」制度の使い方と限界
- 相続放棄できなくなるやってはいけない4つのこと
先に結論をお伝えします。ネット銀行の預金などの「デジタル遺品」も、通常の財産と同じく相続の対象です。この記事では、見えない財産の探し方、手続きの進め方、そして「やってはいけないこと」を順番に解説します。
「デジタル遺品」とは?——相続できるもの・できないもの
デジタル遺品とは、亡くなった方がスマホやパソコン、インターネット上のサービスで管理していた財産やデータの通称です。「お金に関するもの」と「お金に関しないもの」に分けて考えると、整理しやすくなります。
- ネット銀行の預金(楽天銀行、住信SBIネット銀行、PayPay銀行など)
- ネット証券の株式や投資信託(楽天証券、SBI証券など)
- 暗号資産(ビットコインなど、インターネット上の財産的価値)
- 電子マネーやQRコード決済の残高、FX(外国為替証拠金取引)の口座
- SNSやメールのアカウント(多くのサービスで「本人限り」とされ、相続できないことが一般的)
- スマホの中の写真・動画、クラウド上のデータ(取り扱いは各サービスの規約による)
少し性質が違うのがサブスク(定額制サービス)です。こちらは「財産」というより、解約しないと料金が発生し続ける、いわば負債側の問題として注意が必要です。また、ポイントやマイルは各社の規約次第で、相続できない場合があります。
どこにあるか分からない財産の探し方——6つの手がかり
「口座があるかどうかも分からない」という状態でも、手がかりは残されています。次の6つを順に確認してみてください。
| 手がかり | 確認するポイント |
|---|---|
| ① スマホ・PCのアプリ | 銀行・証券・暗号資産取引所・決済アプリがホーム画面にないか。アプリの存在自体が有力な手がかりになります。 |
| ② メールの検索 | 取引明細・ログイン通知・年間取引報告書など。銀行名や「取引」「明細」といった言葉で検索。 |
| ③ 郵便物 | ネット銀行でも残高報告書や税金関係の書類が年1回程度届くことが多い。しばらく捨てずに確認。 |
| ④ メイン口座の入出金履歴 | 見覚えのないネット銀行・証券・取引所への振込や引き落としがないか。 |
| ⑤ 財布・引き出しのカード類 | キャッシュカードやカード類から口座の存在を推定できることがあります。 |
| ⑥ 確定申告書・源泉徴収票 | 配当や雑所得(暗号資産の利益など)の記載から、取引先を推定できる場合があります。 |
銀行口座は「一括照会」という切り札も——2025年4月開始の新制度
2025年4月から、「相続時預貯金口座照会」という新しい制度が始まりました。どこか1つの金融機関の窓口で申し込むと、預金保険機構という公的な機関が、故人の預貯金口座を全国の金融機関を横断して照会してくれる仕組みです。結果は簡易書留の郵送で届きます。亡くなってから10年以内であれば申請できます。
銀行(預貯金)と証券では、使う制度が異なります。下の表で整理しました。
| 項目 | 銀行の預貯金 (相続時預貯金口座照会) |
証券口座 (ほふりの開示請求) |
|---|---|---|
| 申請先 | どこか1つの金融機関の窓口 | 証券保管振替機構(通称「ほふり」) |
| 分かること | 金融機関名・支店名・口座番号など(残高は対象外) | 口座のあった証券会社などの名称 |
| 手数料 | 5,060円(税込)※該当なしでも発生 | 1件1,980円 ※費用は改定予定あり |
| 結果まで | 郵送(簡易書留)で届く | 1か月程度 |
| 注意点 | マイナンバーを届け出た口座のみ | 最新の金額は公式サイトで確認 |
司法書士
ネット銀行・ネット証券・暗号資産、それぞれの手続きの進め方
受付の入口は各社バラバラ
ネット銀行の相続手続きは、受付方法が各社で異なります。
- 楽天銀行:電話で連絡すると書類が郵送される方式
- PayPay銀行:Webの相続受付フォームから
- 住信SBIネット銀行:電話と郵送が中心
※手続きの詳細は変わることがあります。必ず各社の公式サイトの「相続」ページをご確認ください。
一方で、共通している点もあります。死亡の連絡をした時点で、口座は凍結(入出金などの取引が止められること)されます。これはどの金融機関でも同じです。
戸籍集めは「法定相続情報一覧図」でラクになる
相続手続きでは、故人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本など、多くの書類が必要になります。口座が複数あると、その束を何度も出し直すことになりがちです。
そこで役立つのが「法定相続情報一覧図」です。これは、相続関係を1枚にまとめた公的な証明書で、戸籍謄本の束の代わりにその写し1枚で足りる金融機関が多くあります。取得は司法書士が代行できますので、口座が複数見つかった場合には特に有効です。
暗号資産だけは特別な注意を
暗号資産は、どこで保管されていたかで大きく事情が変わります。国内の取引所に口座があった場合は、相続届と戸籍などの書類を提出して引き継げるのが一般的です。ただし具体的な方法は各社の規約によりますので、取引所の案内を確認してください。
なお、暗号資産の相続税の評価や申告は、税理士の専門領域です。税金の具体的な取り扱いについては、税理士にご相談ください。
やってはいけないこと——相続放棄できなくなる落とし穴
デジタル遺品の相続では、良かれと思ってした行動が、後で取り返しのつかない結果につながることがあります。重要な順に4つご紹介します。
自分が元気なうちにできる「デジタル終活」3つの備え
ここからは、ネット銀行などを利用中のご本人に向けたお話です。残されるご家族を困らせないために、次の3つの備えをおすすめします。
また、生前にマイナポータル(マイナンバーの個人向けサイト)などから、金融機関の口座にマイナンバーを届け出ておくのも有効です。届け出ておけば、ご遺族が先ほどご紹介した一括照会制度で口座を見つけられるようになります。届け出ても、国や自治体に残高が伝わるわけではありません。
遺言書の作成は、デジタル資産の一覧化とあわせて進めると効果的です。当事務所でも、遺言作成のご支援を行っています。なお、公正証書遺言のデジタル化については、別の記事で改めてご紹介する予定です。
まとめ——「見えない遺産」こそ早めの調査と備えを
- デジタル遺品も、原則として通常の財産と同じ相続財産です
- 順番は「探す→連絡・凍結→手続き」。放棄の余地を残すため、それまで財産は使わないことが大切です
- 生前の一覧メモは、ご家族への最大の思いやりです
当事務所では、デジタル遺品を含む相続財産の調査のお手伝いをしています。不動産について書いた「不動産の財産調査はどうやるの?」「親の不動産、どこにあるか分からない…」の、いわばデジタル版のサポートです。戸籍の収集、法定相続情報一覧図の取得、金融機関への手続きの窓口代行といった遺産承継業務も承っています。
相続放棄(3か月の期限があります)を検討中の方は、財産を使う前のご相談が肝心です。なお、税金の計算・申告は税理士、相続人同士に争いがある場合は弁護士の領域となりますので、必要に応じて連携してご案内します。
司法書士

